5話
「あの、西原さんの所でもむぅちゃんが出たって聞きましたが…本当ですか?」
「…えぇ、こっちも同時くらいに出たって聞きましたが」
「そう、ですね…ここでも…」
京井は気遣わしげに、冬四郎の方をちらちらと見ている。その視線に気付いたのか、冬四郎がコピー用紙から顔を上げて苦笑いを浮かべた。何も悪い事をしたわけでもないのに、京井は少し気まずそうだった。
「西原君、そっちに居たのはむつだったか?」
冬四郎が知りたいのは、本物のむつだったかどうかだという事に気付いた西原は、ゆるゆると首を振った。一瞬しか見えなかったが、確かに見た目はむつだった。だが、それが本物なのかどうかと聞かれると西原にも分からない。窓から出ていく時に目眩ましのように、吹き上がった炎と熱風。そんな事が出来るとなると、むつなのかもしれないと思うが、そう思いたくはなかった。
「炎を出したとかって…こっちではそんな事はなかったからな。ただ、すばしっこいっていうだけで」
「………あの…」
西原は何かを言おうとして、だが考えるように口をつぐんだ。冬四郎は言ってごらんと、目で促している。西原は、コーヒーをじっと眺めていたが、ようやく顔を上げた。