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5話
「あ、あの…警視正、お話が」
「お話はない。冬四郎だろ?電話。さっさと行け、俺はここで後片付けして帰る」
しっしっと追い払うように手を振った晃は、スラックスをぱたぱたと叩いた。どこか怪我でもしたのか、シャツには少し赤い染みがついている。
「…ったく、どうなってんだかな。色々、終わったら報告に来いよ。全部終わってからな」
「はい…じゃあ、あのすみませんが…行ってきます。良い報告出来るよう、全力をあげます」
西原はぺこっと頭を下げると、コートとマフラーをつかみ、ばたばたと廊下を走っていった。廊下には、まだ何人かが倒れている。それらを踏まないように飛び越え、署から出るとまだ混乱状態にある人々の間を抜けてバイクにまたがった。急ぐわけでもなく、防寒をしっかりするとエンジンをかけた。
先程まで降っていた雨は止んでいたが、寒さは増している。空を少し見上げてから、西原はヘルメットをかぶった。