5話
男の声に従って、西原と晃と対峙していた2人がするっとうしろに下がった。男はぎょろっとした目で、忙しなく大部屋の中を見て、ちっと舌打ちをした。
3人の目的が日本刀であれば、それはここにはない。冬四郎が手元に置いているはずだった。そして、その冬四郎はよろず屋に居る。ここで無ければ、よろず屋に向かうのは容易に想像のつく事だった。ここで捕らえるのは難しくても、よろず屋なら山上も京井も片車輪も居る。そこでなら捕らえられる気がしていた。このまま手を引いて、向こうに行ってくれればと西原は思っていたが、晃は諦める気がないようだった。
「何が目的だ?」
「………お前、宮前むつの兄だな?」
「お前らが妹を殺したやつらか。何故、拐ったうえに殺した?」
「我々に従わないうえに、目的としている物も渡そうとしない。そうなれば、邪魔なだけだからな」
「何が欲しいんだ?」
「…ふんっ、ここには無いようだ。お前ももう少し早ければ使い物になれたがな。妹が死んだ今は用無しだ」
その言葉に、かちんときたのか晃は近くにあったパイプ椅子を掴むと覆面の者に向けて投げた。西原は覆面の者の言葉を聞きながら、むつが生きている事を知っているとは、向こうに悟られていないなと思った。