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5話
晃の険しい声と共に、がしゃーんっという音と悲鳴のような声が聞こえていた。
『何がって言うなら…テロか?』
「すっ、すぐ戻ります」
西原は部屋を出ると、エレベータを待つ間も惜しむように非常階段をばたばたと駆け下りて行った。地下の駐車場に着く頃には完全に息が切れていたが、バイクのエンジンをかけるとすぐに走らせた。
テロと表現した晃の声は、落ち着いた物だったが、よろず屋の事務所が襲われたりもしているとなれば、もしかしたらと西原は思っていた。マンションから署までは、急げば10分もかからない。西原はするすると渋滞している道でも、合間をぬうようにしてバイクをすすめていく。
署に戻ると、西原は呆然とした。悲鳴と怒号、硝子の割れる音に物が倒れる音が響いていて、かなり混乱している様子が外からでも分かる。
署内に居るはずの晃に連絡しようかと思ったが、こんな状況で連絡した所でどうしようもないかなと思っていた。とりあえず、中に入るかと思い西原は表情を引き締めた。