5話
玄関に上がった西原は、お邪魔しますと心の中で呟いた。ぱちぱちっと電気のスイッチを入れながら、真っ直ぐに寝室に向かった。開きっぱなしのドアに、内側から割れた窓はそのままだった。荒らされている室内は、冬四郎と入った時と変わりないようだった。だが、報告にあった通りベッドが壊されていた。
西原は膝をついて、折られた簀と引き裂かれたマットレスを見ていた。日本刀がここにあるのを知って、取りに来たようにしか思えなかった。考えられるのは、むつを拐っていった者たちだろう。簡単に見付けられる場所でもないのに、的確にベッドに的を絞ったように思えた。西原はうーんと唸った。むつが場所を言ったのか、それとも探し物が得意な者でもいたのか。朋枝学園で透視の出来る木戸玲子をみているだけに、西原はそこまでの考えに至った。
物音しない部屋で1人、考え事をしていたが、ジャケットの中の携帯が鳴り出すと西原は相手も確認せずに出た。
「はい、西原です」
はいがやる気の無さげな、はぁに近いような言い方だった。
『…宮前だが』
「あっ‼あ…はいっ西原です!!」
『…それは知ってる。だから、掛けているんだがね?』
晃の不機嫌そうな声に、ははっと西原は声に出さずに苦笑いを浮かべた。
『今、署に来ている。西原君は?いつの間に、捜査に加わっているんだね?私からの口添えだと、こちらの署長から聞いたが…何をしているんだ?』
西原を捜査に加えた宮前警視正は、偽者の晃だと冬四郎から、さくっりと聞かされていた西原は、どう説明しようかと悩んだ。