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5話
「なら、そっち行きますね。ちょっと何時になるか分からないですけど、大丈夫ですか?」
携帯を器用に肩と頬で挟みながら電話をしている西原は、また雨でも降りだしそうな空を見上げた。話すたびに口から真っ白な息が漏れる。
『それは大丈夫だ、俺と京井さんは起きてるから…西原君こそ、大丈夫なのか?』
「あ、俺は大丈夫です。行くときにまた連絡します」
冬四郎のいつもと何ら変わりない声に、安堵している自分に気付いた西原はむっと顔をしかめた。
待ち受け画面をしばらく眺めていた西原は、はぁと溜め息をついた。待ち受け画面は朋枝学園での事件があった時に、むつと菜々が撮ったツーショットのままだった。
再び溜め息を吐き、携帯をしまうとついでのようにタバコを取り出した。自分の吐いている息なのかタバコの煙なのか、分からなくなりそうなくらいに寒い。雪なんかにならなければいいなと思いつつ、吸いかけのタバコを携帯灰皿に入れると、小走りに署に戻っていった。