5話
むつと狐は何事も無かったかのように、のんびりとコーヒーを飲み他愛のない話をしていた。どんな物に興味があるのか、食べ物は何が好きか。そんな程度の話だったが、どちらも女という事と料理をするという事もあり、意外と会話は盛り上がっていた。だが、それを邪魔するように、またドアをノックする音が聞こえた。
狐が明けに行くよりも先に、先程の男がずかずかと入ってきた。狐は、あからさまに嫌そうな顔をしたが、むつは気にもせず男の方を見た。夜に、水を持ってきてくれる狐も今度は一緒だった。
「許可が出た。お前と俺とこいつで行く…手枷を軽い物に変える事になった。だが、信用は出来ないからな…薬は使わせて貰う」
「あたしの考えは不必要だと?」
「そういう事だ。どうする?」
「…悩むな。どこに行く気かは決めてあるの?」
「よろず屋と警察署だ」
むつはコーヒーを一口、二口と飲みカップをテーブルに戻した。
「確認したい事が2つ」
「何だ?」
「殺しはしない?妖でも人でも」
「しない。俺の目的はそれじゃない」
「あたしは…元に戻れるの?」
「薬が切れれば戻る。尋問の時の薬と同じ様な物だからな。お前が気にするのはその2点か?」
「そうよ…それなら、行く」
「分かった。行くのは夜だ…夕方に服を持ってきてやるから、それまで身体を休めておくといい」
「そうさせて貰うよ」
ふんっとむつは鼻で笑うように言うと、カップを両手で持ち温くなったコーヒーを飲んだ。