5話
男が出ていくと、狐がコーヒーをいれて持ってきてくれた。むつは、礼を言い受け取るとゆっくりと一口飲んだ。
「彼らと行動するのは…」
「宜しくないね。でも、あれが…日本刀が誰か知らない人の手にあるって言う事の方が問題だよ」
「取り返せなくなる、からですか?」
「それもあるし、生半可に使える人が持てば…あれは普通の刀じゃない」
むつはコーヒーの入ったカップをテーブルに置くと、タバコをくわえた。手枷のついている両手を持ち上げて、じっと手のひらを見つめた。ぎゅっと手が白くなるほどに握り、ゆっくりと開くとそこには、あるかないかの小さな。本当にわずかで、吐息で消えてしまいそうな淡いオレンジ色の炎が揺らめいていた。むつはその炎でタバコに火をつけると、ふっと吹き消した。
「…むつ様、力が…」
「この程度だけね…見た事をやつらに報告しても構わないよ?」
狐はゆるゆると頭を振った。そして、部屋を出ていくと自分の分のコーヒーを持ってきて、ソファーにちょんと座った。
「得る物も、大きくなりそうですよ」
「本当にね。ご飯、沢山食べといて正解」
ぷーっとタバコの煙を吐き出しながら、むつはにやりと笑っていた。