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5話
「大丈夫?」
むつが声をかけると狐は起き上がり、ささっとむつのベッドまでやってきた。むつが手を伸ばして抱き上げ、膝に乗せてると甘えるようにすり寄ってきた。むつは両手を上げて、狐の背中に手を回すと抱き寄せるようにしてふかふかの毛に頬擦りをした。
「…何が起きてるんだろ」
「むつ様もどうなるのでしょう」
狐は不安げに言った。どうやら、世話をやくのもこうして心配してくれるのも、狐の本心のように思えた。むつはぎりっと歯軋りをした。
「大丈夫、遺体の片付けまでは頼まないよ」
冗談めかして言うと、狐は前足を伸ばしてむつの額をぱしりと叩いた。
「先ず…日本刀がどこにあるのかを特定させないと…あいつらから取り返す所じゃなくなったな」
男から話を聞いた時によぎった思いは、可能性の1つではあるがこの狐にも男にも悟られては不味いとむつは思っていた。