5話
男はむつの問いを無視して、ぎしっとベッドを軋まして座った。むつは布団を引っ張って、身体を隠そうとしたが何を今更と思い止めると男を見上げた。
「部屋のベッドのマットレスをどかすと簀があって、その中にあると…言っていたな?」
「言ったかは覚えてないけど…そこ。簀の板が一部外れるようになってるから」
「…外れたが、無かったぞ」
「………?」
むつは言われた事をすぐに理解出来ずに、きょとんとした顔で男を見上げていた。
「無かった。そこには無かったんだ」
「…は!?えっ…嘘‼嘘っ!!嘘‼本当に?」
「あぁ。無かった。確かに簀の一部は外れたて空洞になっていたが、何も無かった」
「嘘…」
むつは驚いて何も言えなかった。男はそんなむつの様子をじっと見ていた。
「嘘じゃない。無かったんだ…お前、その様子からするとそこにあると、思っていたんだな?」
こくりと頷いたむつは、眉間にシワを寄せて男を見ていた。目元しか見えない男は、何を考えているのかじっとむつを見返している。
「他にも狙ってるやつらが居た可能性は?」
「ないと思う。それは分からない…だって、そもそも狙われるような物だとも思ってなかった」
明らかに、落胆している様子のむつを男は視線を外しもせずに、じっと見ていた。