5話
むつは男に担がれて行った先で、動けないようにされてから何かを注射された。それが何なのかは、むつには分からない。だが、あれを注射されると意識が朦朧とし聞かれた事を無意識のうちに喋ってしまっているのだという事は、初めてこの部屋で丁寧にもてなされた時に、聞かされていた。喋らなかった時は薄暗い檻で食事はなく水だけ。喋ってしまった時には、こうして風呂にも入れ食事も出る。
何者なのかは分からないな敵が、むつを今、丁寧に扱っているという事は、むつは日本刀を隠してある場所を言ってしまったと言う事なのだ。
むつは、ふうっと息をついた。
「ねぇ…いつ、行くの?」
「…日本刀を取りにですか?今夜中には、と思いますが…私にもはっきりとは」
「そう」
この狐はただ、むつの世話をするようにと言いつけられているだけで、あまり他の事は知らないようだった。
「…髪の毛、洗ってといてくれる?」
「えぇ。やりがいのありそうくらいに…絡まってしまってますね。お湯につかったまましますか?」
「迷惑じゃなければ、このままが良いな」
「分かりました」
狐は少し嬉しそうに言いながら、いそいそとシャンプーはどれにするかとむつに見せた。むつは狐と相談しながらシャンプーを選び、狐に背を向けると顔を上げた。泡立てられたシャンプーの良い香りが、風呂場に漂い始めていた。