5話
「お食事もお風呂もすぐにご用意出来ますが…どうなさいますか?」
撫でられた狐は嬉しそうに尻尾を振ったが、すぐにむつの手から逃れるように1歩下がってしまった。むつは苦笑いを浮かべただけで、何も言わずにうーんと唸った。
「なら、お風呂かな」
「では、すぐに支度して参ります」
とっとっとと去っていく後ろ姿を見送り、むつはベッドから降りた。まだ足に力が入らないからか、かくんっと膝をついて前のめりに倒れた。だが、ふかふかした絨毯が床には敷いてあり、痛いとは思わなかった。ただ、むつは悔しそうに歯をくいしばった。
のろのろと起き上がり、ゆっくり歩いて近くにあるソファーに座り込んだ。ソファーも柔らかく、尻がかなり沈む。背もたれに体重を預けていたが、座っているのも億劫なのかどさっと横になると、ふうっと疲れたように息を吐いた。目の前のローテーブルには、水差しと灰皿にむつの愛煙するタバコがフィルムに包まれた状態で置いてあった。
「ご丁寧なこった…」
ふんっと小バカにするように笑ったむつだが、起き上がるとタバコに手を伸ばした。タバコをくわえ、火をつけると久しぶりのタバコに少しむせた。水差しからコップに水を入れ、ちびちびと飲みながら薄く開いた口から煙を吐き出した。