5話
「あ…」
暗い視界の中、聞こえてくる複数の声にむつは気が付いた。意識はあって、聞こえてる声が何を言っているのかも分かる。だが、身体を動かす事が出来ず、目を開けるのさえ億劫で堪らなかった。
「目が覚めましたか?」
耳元の優しげな声は女のものだった。目さえも開けられず、ぐるぐると回っているような感覚がしてきて、むつは吐き気を覚え、ううっと唸った。気持ちが悪く吐きそうだが、吐けない。そんな感じがしている。
「お薬が多かったようで…今、冷たいお水持ってきますから」
薬が多かったという言葉といい、丁寧な扱いに、暖かい場所といい。むつはすぐに、これがどういう事なのかが分かった。瞼に力を入れ、ゆっくりと目を開けるとほのかな光が見えた。仰向けだった身体を横向きにし、むつは起き上がろうとしたが、そこまでは出来ずまた目を閉じた。
「まだ、動かない方がいいですよ」
先程の声がし、顎を少しだけ持ち上げられ唇に管のようなものがつけられた。そして、ほんの少しの冷たい水が唇を濡らした。
「飲めそうですか?」
むつが薄く唇を開くと、少しずつ水が口の中に流れてきた。だが、上手く飲み込めないのか、口の端から流れ出て頬を伝って、耳の方にまで流れてしまった。
「ごめんなさい…拭きますね」
女は優しく言い、そして同じように優しくむつが溢した水を拭った。
「もう少しお休みになった方が良さそうですね…近くに居ますから、何かあれば呼んでください」