1話
「開けたか?」
キーボードを叩く音が聞こえたのか、山上の声だけが聞こえてきた。冬四郎は、何事もなかったように、椅子に座った。
「見付けましたよ。やっぱりメモがありました…」
「やっぱり、あいつ意外とすぐに忘れるって言ってたからな。デジタル人間にはなれないやつだな」
「そうですね」
苦笑いをしながらそう言い、冬四郎は机の上のメモ用紙を1枚そっと破ると、そこにむつの字に似せて書いておいた。それをわざとらしく机に置いて、冬四郎はファイルを開いた。
ファイルの中は仕事をした日付で細かくわけてあった。おそらく、報告書だろうと冬四郎は思った。それらを1つずつ確認していくのは、大変な作業になりそうだった。溜め息が出そうになったが、冬四郎は他のファイルを見つけた。開こうとしたが、それにはロックがかかっていた。またか、と思った。だが、それはすぐに分かった。カーソルを合わせると、いつも打ち込んでいるのか予測が出ていたのだ。それをクリックするとファイルは閲覧出来るようになった。
日付が飛び飛びになっている。むつにとって、これらは他とは一緒に出来ない物と判断しての事なのだろう。




