5話
山上は怪我なくて良かったと言っていたが、冬四郎と京井は顔を見合わせていた。棒状の物を机に置いた片車輪は、コーヒーいれてきますよとキッチンに向かっていく。それに気付いた祐斗が、わたわたと追って行った。
「…ただのナイフじゃないですからね」
「…むつのも人は切れないんですよ」
京井が何か考えるように小声で言うと、それが聞こえたのか冬四郎も小声で返した。少し首を傾げた冬四郎は、颯介からナイフを受け取ると自分の手のひらに刃を押し当てて引いた。
「宮前さんっ‼」
「おっ‼おい‼みや‼」
颯介と山上が何をするのかと驚き、止めに入ろうとしたが冬四郎は平然とした顔だった。
「やっぱり、そうみたいです」
「な、何がやっぱりなんだ‼祐斗、救急箱‼」
慌てたような山上の声に、救急箱を抱えて祐斗は、ばたばたと走ってきた。
「大丈夫ですよ」
落ち着いている冬四郎は、手のひらを山上に突き出すようにして見せた。刃を押し当てて、引いたからにはぱっくりと切れていると思ったが、冬四郎の手のひらには、引いた時に出来たのかほんのりと窪んだ線が出来ているだけだった。
「何で、だ?」
「むつのと同じなんですよ」