5話
京井は冬四郎の方をじっと向いたまま、目を反らす事もなくずっと話してくれていた。冬四郎も聞きながら、京井から目を反らさなかった。
「冷たい言い方をすれば…むつの自業自得という事のような気がしますが」
「そう言わないでくださいよ。我々がむぅちゃんと過ごす事に居心地よさを感じ、甘えてしまっていたせいですから」
ほんのりと寂しげな言い方をした京井は、伏し目がちになり溜め息をついた。
「人と過ごす事が居心地というのは、大事な事ですよ。京井さんは人の社会で生活してるわけですし…だから、私たちも京井さんに甘えるしお力をお借りしたくなります。この件が片付いた後…むつと距離をあけるという事がないように、今後ともよろしくお願いします」
冬四郎は少し後ろに下がり、正座をすると床に手をついて深々と頭を下げた。それには京井も慌てたのか、テーブルに手をぶつけたりしながら、同じ様に深々と頭を下げた。
「…宮前さんは、むぅちゃんのお兄さんですし…目に入れても痛くないって程に可愛がってるようですから…近付くなとか言われるかと思ってました」
「目に入れても痛くないっていうのは、うちの長男だけですよ。血の繋がりはなくても、歳の離れた…いつまでも子供のままの妹に代わりはありませんけどね。それに、京井さんが距離を置くなんてしたら、むつが悲しみますよ…母親と、むつの母親と京井さんはお知り合いでしたよね?だから、それがあるから良くしてくれてるだけかな、って言ってた事がありました。むつ個人を…母親とか関係なくむつを好ましく思って居てくださるのであれば、今後も変わらないお付き合いをしてやってください」