5話
かなり歳上のはずの京井は、自身を落ち着かせる為にもコーヒーを飲んだ。苦いだけで、何が良いのか理解出来ないと思い続けていたが、こうして間をもたせる為や気持ちを落ち着かせるのに、香りは良いのかもしれないと思う程に、人の社会に慣れてしまっていた。それが良い事なのか悪い事なのか、京井には判断が出来なかった。
「…むぅちゃんが連れ去られた原因は我々、妖にあるのだと言われましたよ。連れ去った彼らは、妖を悪…そこまでは思っていなくても、人と関わって良いものではないと判断しているようです。むぅちゃんは仕事柄、妖と出会う事も多いですし頼られる事も多いですよね。それが…彼らはにとっては、認められない事だったようです」
「何で、そんな…誰と関わろうと個人の勝手なんじゃ…」
「えぇ。ですが、そう思われない方々もいらっしゃるという事です。むぅちゃんを拐った者たちは、日本刀を奪いそれを使いこなせる者に渡し、妖を片付けていきたいようです。むぅちゃんがあの刀を妖の為に使うのは許せないそうで…」
「確か、普通の人じゃ鞘からも抜く事が出来ないって…それは男から聞いた事なんですよね?」
冬四郎が念を押すように聞くと、京井は静かに頷いた。冬四郎は伸びてきた髭を触りながら、そうか、と呟いた。
「あの男は、むぅちゃんを拐った者の仲間だそうですし…彼も我々を快くは思っていないようです。ですが、むぅちゃんが自分の信念を持って行動しているなら、そこには口出しは出来ない、と言ってました」
「仲間だから、向こう側の動きや目的が分かった…という事でしたか。そんなやつを信用して良いと思いますか?」
「良いとは思えません。ですが、仲間のしている事を容認出来ないと言ってましたし…むぅちゃんを助けたいという気持ちに偽りはないと思いますよ」