5話
いつの間にかそのままで眠っていたのか、がちゃっと重たい音がしてゆっくりと目を覚ました。大柄な男が、ごつごつと足音をたてて近付いてくると、毛布にくるまったむつをそのまま担いだ。
肩に乗せられ、連れられていくというのにむつは暢気にも欠伸をしていた。そんな緊張感のないむつに気付き、男が微かに首を傾げてみせた。
天井が低いのか、手を伸ばせば届きそうだと思ったむつは男の頭に手を置くと、ぐっと力を込めて身体を持ち上げて反対の手を伸ばそうとしたが、手枷がついているせいで伸ばせない事に気付くと諦めたように、ふぅんと唸った。
「何してる?」
「…届くかなと思って」
むつを運ぶ役の男の声を始めて聞いた気がしたむつは、しようとしていた事を素直に伝えると男は、呆れたような溜め息を漏らした。
男の肩に腹を乗せるような体勢のむつは、男が足を踏み出すたびに伝わってくる振動が空っぽの腹に響くようで気持ちが悪かった。うえっと言いながら、両手で口を押さえた。
「…今度はどうした?」
「揺れて気持ち悪い」
「今日は…変だな」
男は面白がるように言いながら、狭く低い階段を身を屈めるようにして上がり始めた。ややあって、明るい光が見えてきた。薄暗い所に居たせいか、その光がまぶしくて、むつは目を細めた。