5話
尻が冷え、早くもじんじんと痺れるような痛みを伴ってきた。むつは、ころんっと横になって柵の方に視線を向けていた。目は開いていても、ぼんやりと目の前の物が映ってるにすぎない。
こんの時は楽しい事でも考えてみようと思うが、なかなか思い付くものでもない。それに、考え事を始めてしまうと一緒に働いていた人達や友人、家族の事が思い浮かぶ。だが、数日会っていないだけにも関わらず、すでにその顔には靄がかかっているように、はっきりとはしない。なぜ、こうも思い出せないのかと思うと腹立たしく目にはみるみるうちに涙が溜まっていく。そして、まばたきと共にぼろっと流れた。
ぐすっと鼻をすすり、コンクリートの床に流れていく涙をそのままにしていた。ずっと鼻をすすりながら、丸くなり寒さに耐えていると、遠くからこつこつと足音が聞こえてきた。足音が近付いてくると分かると、むつは息を殺してその足音がどこに行くのかと耳を澄ませていた。
途中立ち止まったり、じゃりっと足の向きを変えるような音がしていたが、その足音がこちらにくると分かると、薄く開けた口からゆっくりと息を吐いた。
まだ狐の言っていた時間になるには早い。それに、そいつらならば蝋燭を持っていたりして、迷うような素振りはないはずだった。誰か、ここに来た事のない物が近付いてきている事だけは分かった。それが余計に緊張に繋がった。