5話
西原に進められるがままに、冬四郎はノンアルコールビールに口をつけたものの、うーんと唸っていた。
「…片が付いたら、普通にビール呑みたいな」
「そうですね。やっぱり美味しくないですね…気分も出なかったですし」
結局、西原もそこそこにノンアルコールビールを呑むのを止め、買ってきたパックのカフェオレにストローを刺して、ちゅうちゅう飲んでいた。
「飯食いながら、コーヒー牛乳かよ」
「カフェオレです。宮前さんだって、可愛らしくもイチゴオレ買ってるじゃないですか」
「…甘い物が欲しかったんだよ。けど、飯と一緒にする気にはなれないな」
テレビもつけずに、男2人は時おり会話をしながら、弁当をつついていた。決して、仲が良さそうな会話でもなかったが、仲が悪いわけではない。こうも2人きりになると、何を話していいのかが分からないだけだった。
「むつは飯食ってんのかぁ…」
西原は食べ掛けのパスタを見ながら呟いた。冬四郎は何かを言いかけたがやめ、砂を噛むような顔つきで米を飲み込んだ。
「心配すんな。あいつが飯食えてなきゃ、今頃大暴れしてニュースにでもなってる」
「…それも、そうかもしれませんね」
ふっと笑った西原は、プラスチックをフォークにくるくると麺を巻き付けると、口に運んでもそもそと噛んだ。冬四郎も西原も、ただエネルギー源として物を摂取しているだけで、味など全く分からないほどに食欲はなかった。