5話
「…明日も同じ時間だ」
狐は、ぼそっと早く休めと女を心配するように呟くと、蝋燭のほのかな灯りをゆらゆらとさせながら遠ざかって行った。
女は狐の後ろ姿を見送りながら、ふっと少しだけ笑うと、ごろんと横になった。毛布1枚だけを身体に巻き付けている女は、狐が人の言葉を喋るという物を見ようと、薄暗く寒い場所に押し込められていようとも、怖がりもせずにじっとしている。この女こそが、玉奥むつだった。
むつが押し込められている場所は、地下なのか床はコンクリートだが壁は地肌がむき出しになっている。暖房器具なんてものはなく、すきま風が吹いている。今のむつは毛布を巻いている以外には、何も身につけてはいない。寒さのせいか、吐く息は白く手足の先は紫色になっている。
ここに連れて来られてからは、まだ2日程だった。その前には、海の見える倉庫に押し込められていた。その時もずっと手枷を付けられていた。その時には鎖もつけられ、完全に動きも制限されていたが今は鎖がない。だが、やはり狭い中に入れられているせいで、動きが制限されている。
むつは足を曲げて、丸くなるとふぅっと息をついた。どこか分からない場所でこうして眠るのは、4日目だった。