5話
「お水」
女が言うと、狐は柵の間からペットボトルの水を投げ入れると、横たわった女の顔の前に落ちた。女は両手をついて、ゆっくりと上体を起こした。両手でペットボトルを掴むと、ぎゅっと力をこめて蓋を外すとごくごくと喉を鳴らして飲んだ。
「はぁ…いつまで続くの?」
「それはお前次第だろうに。何故、喋らない?すでに、身体は限界にきているだろ?」
女は口からペットボトルを離すと、唇についた水滴を指で拭って、それもぺろっと舐めた。
「そうね。あちこち痛いし…寒い」
「あれはどこにある?それさえ言えば、ここから出られるんだ。そろそろ教えてくれても良いだろ?」
狐の気遣わしげな優しい声に、女はさらさらと髪の毛を鳴らしながら、首を横に振った。
「言えない」
「そこまで、執着する理由は?」
「そう、ねぇ…何だろ?」
「我々と共に行動する気にもならないか?」
「ならない、かな」
薄暗い中で、女はくっくっくと肩を揺らして笑っていた。手枷以外には何も身につけていない女の、大きな胸が揺れていた。
「お前…それで良いのか?」
「良いよ」
はっきりとした声で即答した女は、入れられている場所の隅に置いてある毛布を掴むと、身体に巻き付けた。