5話
大柄な男の肩に担がれた女は、だらんと手を伸ばし完全に脱力しきっていた。男は女の腰に手を回すようにして、薄暗い倉のような所に、ボールでも投げるかのように投げた。投げ込まれた髪の毛の長い女はどんっと壁に背中を打ち付け、床に倒れこんでも女は呻きもせずに、黙ったままだった。
がちゃんっと音がして、ごんごんごんっと男の重たそうな足音が去っていくと、女は気だるげに首を動かした。顔にかかっていた髪の毛が、さらっと揺れて青白い顔が見えた。そして、はぁと溜め息をついた。ゆっくりと仰向けになると、再び長い溜め息をついた。
「お前、まだ粘るのか?」
ふいに暗闇から声が聞こえ、女はそちらを見た。そこには、蝋燭を持った狐がちょこんっと座っていた。
「今日は何も喋らなかったみたいね」
溜め息のように、かすれた小さな声で女は面白がるように言った。だが、その声には明らかな安堵と共に疲労が漂っている。
「安心してる場合か?死ぬぞ?」
「うん…死んだ方がましだと思うよ」
腹の上に置かれた両手には、重たそうな鉄の手枷がつけられている。女は腹から手を下ろして、ごろんっと横になった。髪の毛がばさっと顔にかかり、表情はよく見えない。女は狐の方を向いているが、その間には腕くらいしか通さないような、柵があった。