195/542
4話
「…っと、終わったみたいです。どうぞ、中を改めて見て下さい…って言ってもあれですけどね」
西原は少し残念そうに言いながら、ポケットから手袋を出して冬四郎に渡した。冬四郎は手袋をはめながら、西原に続いて部屋に入った。
開け放されたドアをくぐると玄関でもすでに、下駄箱から靴が出されてあちこちに散乱している。冬四郎はそれらを踏まないように、避けて靴を脱ぐと室内に入った。玄関を入ってすぐのキッチンでも、食器棚から食器が出されて割れて落ちている。戸棚から鍋やフライパンも出ているし、冷蔵庫の中身まで出されている。荒らすにしても、徹底的すぎるやり方に冬四郎は顔をしかめた。
「本当に酷い有り様だな」
「えぇ、むつのお気に入りのマグカップまで割れちゃって…あいつ、悲しむでしょうね」
西原は床に転がっている赤いマグカップを拾い上げると、とんっとダイニングテーブルに置いた。カップは飲み口の辺りが、大きく割れている。もう、使い物には到底ならないだろう。
「そうだな」
冬四郎もそのマグカップには見覚えがあった。むつが、部屋に居る時にはいつも使っていた物だ。