1話
山上にそう言われ、先に颯介を自宅まで送り届けた冬四郎は、ハンドルを握りながら、はぁと溜め息を吐いた。
「お前、溜め息多いな」
「そりゃあ…多くもなりますよ。まさかこんな事になる日が来るなんて思いもしなかったので」
「まぁなぁ…むつが易々と誘拐されるなんてな」
「誘拐なのか何らかの理由で自ら姿をくらましたかは分かりませんけどね」
冬四郎としては誘拐ではなく、意志を持っていなくなったと思いたいようだった。だが、それは違うと冬四郎自身がよく分かっていた。山上はそんな冬四郎の気持ちを汲んでか、うんうんと頷いただけだった。
「あ…それより、どうするんです?」
「何を?」
「いや、後ろの…」
ぽんっと膝を打った山上は、すっかり忘れていたのか後ろを向いた。
「お前、どうする?人の形でいるのが大変なら帰れ。そうじゃないなら…うちは嫌だし、事務所に泊まってけ。みやはどうする?うちに泊まるか?」
「………」
冬四郎は悩んでいるようだった。
「明日は?」
「当直ですよ」
「タイミング悪いな…」
「抜け出すか遅めに出ますよ。その前には、片車輪からも話聞いたりしたいですし」
「まぁ妹が行方不明なら、そのくらいは許されるだろうよ。何なら急遽休んでも大丈夫じゃないか?」
「休むのは…何か負けた気がしませんか?」