4話
椅子を少し引いたと思ったら晃は、机の端を蹴り上げて、くるっと回って椅子から降りた。顔も声も晃の物に違いないが、動きはどう見ても普通の人の物とは思えないほどに軽い。
冬四郎と山上が身構え、颯介と祐斗も立ち上がったが京井と片車輪だけは、のんびりと構えていた。
「この前の仮面の男ですね?わざわざ、むぅちゃんの無事を教えに来た…って所ですか?」
晃は何も言わずに、にやりと笑った。そんな様子を目の端で捉えた京井は、冷めきったコーヒーを飲んだ。
「何がしたいのか…こちらに対しての敵意はないようですが」
京井は独り言のように呟いた。
「むぅちゃんとの関わりは何ですか?」
静かな声だったが、京井を中心にして強い風が一瞬吹いた。気のせいかと思う程の物だったが、窓がびりびりと揺れていた。声も顔もいつもと同じく、穏やかな物だったが内心は違うのだろう。その内心にある物が風という物となって、吹き出たようだった。それには晃も驚いたのか、呆然としている。
「…昔、助けられた事がある。俺は追われて怪我をして動けなくなった時に、むつが助けてしばらく面倒を見てくれたんだ。一時期だが一緒に生活をしていた」
冬四郎も山上は、そんな話聞いた事あったかと、顔を見合わせている。この2人でも聞いた事のない話を始めた晃を、京井は胡散臭そうに見ていた。
「信じられないのも当然だな。むつはまだ、大学を卒業したばかりで塾に勤めていた時の話だ」
むつが塾に勤めていた事があるのを、冬四郎と山上、颯介は知っていた。だが、それを知らない祐斗と片車輪は、少し意外そうにでも思ったのか、へぇと声をあげていた。