4話
「ありがとうございます。じゃあ、行ってきます‼」
「あぁ、西原君。遅くなった理由なら私に引き留められてたって言ってくださいね」
「あ、はい。そうします」
西原はきっちりと腰を折り、頭を下げた。その時に、肩に登っていた狢が落ちそうになり必死の顔付きで掴まっていた。西原はくすっと笑うと、狢をジャケットの前に入れて前足をボタンの部分にかけさせた。
「落ちるなよ?」
もっこりとした腹の部分に手を添えると、西原はまた頭を下げるとばたばたと出ていった。足音が遠ざかっていくと、晃はコーヒーを一口飲むとふうっと息をついた。
「…変わった人だな」
晃がくっと笑うように言うと、山上と冬四郎はすっと目を細めた。そして、ゆっくり立ち上がるとじろりと晃を見下ろした。
「お前が言うか?」
「そんな事より…お前、誰だ?」
山上と冬四郎に言われた晃は、両手で冷めてしまったコーヒーのはいっている紙コップを持ち上げた。一口飲むと、ついと首を傾げるかのように2人を見上げた。
「…兄の顔を忘れたか?」
「兄貴が、むつが死んだって聞いてあんなに冷静でいられるわけがない。あいつなら最低でも1日は、泣きながら部屋に閉じ籠って出てこない」
「…………」
冬四郎がきっぱりと言うと、晃はくっと笑った。紙コップを机に戻すと、椅子を軋ませて背中を反らせた。