1話
警察はむつが何かしらの事件に巻き込まれたと見て、捜査をすると言っていた。人からの相談を受ける仕事をしているなら、それで逆恨みなんかをされたのではないかとの見方をしているようだった。
「逆恨み、か…」
車に戻ると山上が呟いた。確かに、数多くの仕事をしていけば、人からのむつの場合は人以外からの恨みを知らないうちにかっている事もあるかもしれない。だが、そうとは思えなかった。
「…みや?」
タバコを吸いながら、ネクタイをゆるめ自嘲気味に冬四郎が笑うのを山上が気付いた。
「あ、いえ…逆恨みって言うなら俺や兄のせいかもしれないなと思って」
「可能性はあるな。それなら今、一緒に働いてる俺のせいっていう事も有り得るな」
運転席と助手席の2人が、元、現職の刑事だという事を知っている颯介は、何と声をかけたらいいのか分からず、ただ黙っていた。
「…帰りますか?もう遅い時間ですし、家まで送りますよ」
タバコを揉み消した冬四郎が言うと、後部座席に居た片車輪が、事務所に戻ろうと言い出した。
「そうだな…まだ、片車輪から話を聞いてないからな。事務所に戻るか?いや、明日にするか。むつの事だからな、連絡つく奴ら集めて協力させよう」