4話
わぁわぁと叫んでいる祐斗の手から片車輪は、むんずっと布を掴み上げた。そして、両手で端を持つと洗濯物を干す前にシワ伸ばしをするかのように、ばたばたとあおいだ。すると、くったりとした茶色い動物になった。
「た、狸?」
「いや、狢やな…珍しい」
「狢って何ですか?」
祐斗はジーンズで両手をごしごしと擦りながら、京井に向かって聞いた。京井は答えるか悩んだような素振りを見せた。それに気付いた片車輪が、狢と呼ばれた狸のような動物を片手に持ち、これはなと皆に、見せるように持ち上げた。
「狢っつーのはな、狸と同じで幻覚を見せる事が出来る、妖なんや。こいつの幻覚で、わしらはねぇちゃんが血塗れで死んだと思わされてたんやな」
「って事は…」
祐斗がさも嬉しそうな顔をして片車輪を見上げた。その笑顔につられるように、片車輪もにやりと笑った。
「あぁ、これはねぇちゃんやない…見てみ?」
片車輪に言われて、ベッドの方を見ると先程までは冷たく青白い顔のむつが横たえてあったはずの場所には、人の大きさほどの藁人形が置いてあった。
「人形やな…ねぇちゃんも札持ってるやろ?人の形に切り取った紙っぺらを。それと同じや」