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4話
少しだけでも場の重苦しさが緩和され、冬四郎もほんのりと笑みを浮かべたが、泣き笑いのような顔だった。だが、緩和されたからといって会話が生まれるわけではなかった。相変わらず誰も喋らず、無言のままだった。
奥の部屋では何の会話がされているのか、山上も晃もすぐに出てくる気配はない。冬四郎も何か分かっている事があるなら聞きたかったが、加わる気力はなかった。倉庫で見付けた簪をそっと出して、いじっていた。飾りがじゃらっと揺れている。その効果なのか、ばたばたと廊下を走ってくる足音が聞こ、ばんっと荒々しくドアが開いた。
「宮前さん‼む、むつが…」
やってきた西原は、そのあとの言葉が続かなかった。事務所がいる面々の顔を見て、誰もが沈痛な面持ちでいると分かったからだろう。
「これ…西原君があげたものだろ?」
冬四郎が手にしていた簪見せると、西原はつかつかと歩み寄ってくると冬四郎の手から簪を持ち上げた。そして、頷いた。
「倉庫に落ちてた」
「そうですか」
西原はぎゅっと簪をにぎった。手の中で、みしっと音を立てたのに気付くと西原はそっと手を開いた。