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1話
「…っ、むつっ‼」
部屋の電気を全てつけながら、冬四郎はむつの寝室のドアを開けた。ベッドの上の布団は、きちんとならしてあるしカーテンもしまっている。冬四郎は、他の部屋のドアを開け、それから風呂場のドアを開けた。そして、一瞬動きを止めた。湯船に湯が残っているし、バスマットには赤い染みがついている。
「みや、むつ居るか?」
玄関から入ってくる気はないのか、山上の声だけが聞こえてきた。冬四郎は、ぐっと唇を噛みのろのろと玄関に戻っていった。そんな冬四郎の様子を見た山上は、むつが居ない事を察したのだろう。
「何かあったんだな…」
山上は呟きながら、床を指差した。買い物袋の横に赤いカバーのついた携帯があった。それに、仕事の時に使っている鞄も落ちている。どれも、むつの持ち物だった。冬四郎は、それらを拾い上げたい気持ちをぐっと押さえて、自分の携帯を取り出してすぐに警察を呼んだ。