152/542
3話
むつの自宅のある階の廊下にすとんっと降り立った京井は、すでに人の姿に戻っていた。ベランダづたいに上がり、途中から非常階段できた片車輪と合流した。
2人は注意深く辺りに何かしらの気配がないかと、神経を研ぎ澄ましていたが何もない。京井の耳に聞こえてくるのは、各部屋からの生活音や話し声。それに離れた所から聞こえる、車の音だけだった。
「覆面のやつらには、逃げられてもうたな」
「そうみたいですね。でも、今はむぅちゃんを見付け出すのが最優先です」
「…ほんまに、部屋におるんか?」
「臭いはここからしてます。ですが、どう考えても変ですよね。連れ去って、ご丁寧に家に送り届けるなんて」
「変やな。ねぇちゃんを囮にギャクニ待ち伏せも有り得るしな」
「それなら、尚更…先に確認しましょうか」
京井はそう言うと、ドアノブに手をかけた。
「鍵、開いてるんか?」
「どうでしょう」
一呼吸置いてドアノブをゆっくりと回して、引っ張ると鍵はかかっていなかったようで簡単に開いた。