3話
道の真ん中、むつの自宅があるマンションの前に座っている京井は、顔を上げて片車輪を呼ぶために、再び遠吠えをしようとして止めた。
「犬神さん‼」
「…臭いの出所は部屋のようです。山上さんに連絡をしてください」
「分かった。社長さん、マンションや」
『分かった。周りには?覆面のやつらいないのか?』
「そっちは見失ってもうた…すまんな。けど、臭いは部屋からやって犬神さんが言うてはるから間違いないやろ。どないする?先に行こうか?」
『…そうだな。こっちはまだ少しかかる。先に確かめてみてくれるか?鍵かかってようが、何とかなるだろ?』
「せやな。先、行くで」
ぷつんっと山上との通話は切れた。言わずとも、聞こえていたのだろう。京井は、こくんっと頷いた。
「オートロックですし…部屋のある階まで登りましょうか。行けそうですか?」
片方分の車輪に炎をまとわせ、その上に鎮座している片車輪はマンションを見上げて、無理と判断したのか首を振った。そして、しゅうしゅうと蒸気機関車のように煙をたてて、炎を消すと人の姿になった。
「こっちなら行けるわ」
そう言うと、片車輪は地面を蹴り上げて、2階部分のベランダの柵に手をかけると、身体を持ち上げて足をかけた。そして、また飛び上がり次のベランダに手をかけてを繰り返して登っていく。京井は少しだけマンションから離れて、助走をつけると後ろ足で強く地面を蹴って飛び上がった。