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3話
失敗だとは思っていなくとも、臭いはもう近付いてこない。一定の場所に留まっているかのようだった。風に乗ってやってくる臭いは、一瞬濃くなったものの、あとは薄らいでいる。それでも臭いは途切れない。何があったのかと、片車輪は気になり始めていた。
大きな道はこの1本だが、住宅街だからか細い道は何本もある。そこに入り相手はすでに、どこかへ行ってしまったのだろうか。だが、車の音もバイクの音もしていない。
じっと待っていた片車輪だったが、不意にわぉぉぉんっと遠吠えが聞こえてきた。どこかで犬が鳴いているのかとも思ったが、耳にびりびりと響くような声は、普通の犬ではない。京井が遠吠えをしている。そう思った片車輪は、何かあったのかとマンションの方向に急いだ。
しんと静まり返った夜の住宅街には、点々と街灯があるだけで人通りはない。そんな場所での遠吠えはかなり目立っていた。何度も、京井の遠吠えが聞こえてくる。