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1話
むつのマンションの前で路上駐車し、暗証番号を知らない冬四郎は、鍵を差し込んでオートロックを開けた。エレベータに乗り、むつの部屋の前まで行き鍵を開けようとして、冬四郎は手を止めた。鍵を差したまま、手を放した。
「…鍵、開いてます」
「何?」
冬四郎の用心深い小さな声に、流石の山上も緊張したようだった。颯介と片車輪を後ろに下がらせ、山上は壁にぴったりと背中をつけた。冬四郎が音を立てないようにドアノブを握るとゆっくり回した。そこで1度止まり、山上の顔を見た。山上が頷くと、冬四郎は勢いよくドアを開けた。すかさず、山上は入ったがすぐに足を止めた。
「みや…警察呼んだ方がいいかもしれない」
山上のあとから入った冬四郎は、玄関で散乱している靴とすぐ先に落ちている買い物袋を見て、目を見開いた。玄関の電気はついていても、奥の部屋の電気はついていないし、しんと静まり返っている。
靴を脱いで冬四郎は、真っ暗な部屋の中に入っていく。山上はその場で、待っていた。ぱちんっぱちんっと電気のスイッチを入れていく音と、冬四郎の足音だけが聞こえていた。