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3話
片車輪は、ぐんぐんとスピードをあげて走りむつの自宅マンションを少し越えた先。以前臭いを追った時に、見失った辺りまでやってくると、スピードを落としていった。臭いは、ゆっくりとだが確実に近付いてきている。
「マンション付近で、犬神さんと挟み撃ちにすんで」
『は?お、追い抜いたのか?』
「あぁ…道筋多いから無理かもしらんけどな」
『わ、おぉっ‼分かった…気を、気を付けろよ』
山上の驚きと戸惑うような声に、片車輪はまた冬四郎が無茶な運転をしているんだと容易に想像がついた。
道路の真ん中で、道を塞ぐように止まっている片車輪は、じっと正面を見据えた。微かな風が吹いているからか、血の臭いが漂ってくる。だが、急にむわっとするくらい強く臭った。片車輪は不信に思った。見えていないだけに、血の量が増えて臭ったのか、どこかに押し込められていた臭いが解放されたように流れ出たのか。区別はつかない。
だが、臭いを追って京井がやってきている気配もする。追い越しての待ち伏せも、あながち失敗ではないようだ。