3話
京井は道を教えながら、なぜ血の臭いが自宅のある方向に向かっているのか不思議でならなかった。自宅マンションから臭いを追った時の方向と倉庫は真反対といってもいい場所にある。その先に、まだ覆面の者の隠れ家でもあるのだろうか。
「犬神さん、この方向やと…」
ずんっと足元が揺れるような振動と共に、片車輪がやってきた。別れて追ってもやはり、向かう先は同じだった。という事は、臭いの元は1つという事だけは確実なようだ。
「マンションの方ですね」
「マンションに先回りしたい所やけど…流石に文明とやらは凄いよなぁ」
真面目な顔で片車輪が言うと、京井は困ったように笑いながら、くわえていた携帯を投げて、片車輪に渡した。
「せやけど…ねぇちゃんの運転よりは遅い」
「お願いします」
携帯を持った片車輪は、すっと横目で京井を見ると顎を引くように頷くと、車輪にまとわせていた炎を吹き上げさせた。そして、あっという間に京井を追い抜いて行った。
「これは、夜目にも目立ちますね」
京井は呟くと、どんどんと小さくなっていく炎に包まれた大きな車輪が、ごぉごぉと音をたてて走っていく後ろ姿を見ていた。