3話
片車輪に追い付いた京井は、携帯を握り締めながら懸命に走っていた。傷口が痛むが、今はそれどころではない。
「こんなに血の臭いが…」
「わざとやな」
「でしょうね…もしかしたら、血を含ませた物を持って移動している可能性も考えられますが」
「だとしても新しい臭いですね」
「せやな、どこかで常に見張られとるな…傷、大丈夫かいな」
京井が傷口を押さえているのを見て、片車輪が心配そうに言ったが、京井はふっと鼻で笑うだけだった。笑った目が細められ、とても人の物とは思えないような鋭さを帯びていた。
「人の身体は不便やな」
「えぇ、走りにくい…というよりも限界を感じますね。人目とか考えると」
「携帯、持ったろか?」
にやりと片車輪が笑った。だが、京井はふふっと笑い返し、首を振った。そして示し合わせたように、頷きあうとだんっと地面を思いきり蹴ると、飛び上がった。街路樹の枝を掴み、逆上がりの要領で身体を持ち上げ、そのまま近くのビルに飛び移った。
「道路より楽やなぁ」
「本当ですよね」
妖としての本来の姿に戻った2人は、ビルの上を走りながら左右に別れた。そして、臭いを追っていった。