3話
電話越しに京井が笑ったような気がして、山上はその言葉を信じる気にはなれなかったが、今はそうも言ってられない。
「祐斗、俺の持っとけ‼湯野ちゃんの車に‼来た道戻るって伝えろ‼」
山上はそう言い、携帯を渡すと先に走っていき冬四郎の 車に乗り込んだ。祐斗も少し遅れて颯介の車に乗り込んだ。冬四郎の車はすでに、制限速度を無視して走り出していた。
「みや、安全運転で…頼むっ」
冬四郎がタイヤを鳴らして、返事の代わりをするように道を曲がった。シートベルトをまだしていない山上は、揺れを何とか耐えるとはぁと溜め息をついて、いそいそとシートベルトをつけた。
『山上さん‼もうすぐ事務所です』
「は?はぇえよ‼」
「どこですって?」
『また連絡します』
「頼んだ。事務所だってよ…と、湯野ちゃん見えなくなったな」
山上は身を乗り出すと、冬四郎のジャケットのポケットに手を突っ込んだ。そして、さらに身を乗り出そうとすると冬四郎が山上の腕を掴んだ。
「何なんですか!?タバコならないですよ」
「ちげぇ‼携帯寄越せ、携帯‼祐斗に俺のを渡してきたんだよ。あいつらに連絡するのに、携帯寄越せ」
冬四郎はシートベルトを外して、ズボンのポケットに手を突っ込むと携帯を出して、山上に手渡した。ついでのように、ジャケットの内ポケットに手を入れるとぽんっとタバコの箱も投げ渡した。
「…あんじゃねぇかよ」
山上は冬四郎の携帯で自分の携帯に電話をしながら、タバコを取り出してくわえた。