3話
「谷代君、急いで‼湯野さんが片車輪に携帯を渡してるんだ‼」
冬四郎がそう叫ぶと、山上は何で颯介が祐斗に携帯貸してと言ったのかぴんと来たようだった。そして、遅れがちな祐斗の腕を引っ張るようにしてぐんっと走るスピードを上げた。祐斗は引っ張られながら、いつもだらけていて運動とは縁のなさそうな山上が、こんなにも走れるのかと不思議に思っていた。それと共に、運動をし始めたとは言えど、まだまだ何だなと実感させられていた。
先に駐車場についた冬四郎と颯介は支払いを済ませ、先に車を出していた。山上は、それに気付くと祐斗に携帯を出させるように言った。そして、受け取った携帯で颯介の携帯に電話をかけ始めた。
『何や!?』
「今、どこだ!?」
『はー?どこって…どこやねんここ。とりあえず、犬神さん来た‼犬神さん‼』
『もしもし?今、これは…来た道を戻ってる感じですね。とりあえず、事務所に戻る方向です‼』
片車輪から京井に変わり、はぁはぁと息を切らせつつ京井が説明をした。
「分かった‼電話切るなよ‼」
『分かりましたよ…けど、耳に当てながら走るのはちょっと…』
「何かあった時にだけ、言ってくれりゃいい‼無理だけはするな‼」
『……っ、大丈夫ですよ‼』