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3話
京井が急ぐように匂いを辿り始めた。冬四郎は、京井の後ろを歩きながら京井と同じ事を思っていた。ここに来て急に匂いがするようになったという事は、ここに来ている事をしって、相手がこちらを誘き出す為にわざとやっているのではないかと。そう思うと、このまま辿ってもいいのかと不安になった。だが、ここで何かしらの手掛かりを掴めたらそれだけでも、危険をおかす価値はあるのではないかとも思っていた。
時折、吹いてくる風を睨むように京井は海の方を見た。そして、そこから微かにでも匂いを嗅ぎとろうとしているように、すんすんと鼻を鳴らした。
片車輪も京井のように、すんすんと鼻を鳴らして匂いを嗅ごうとしていたが、臭ってくるのは潮の香りばかりなのか、首を傾げていた。それに、鼻を鳴らして匂いを嗅ぎでいるのか、寒さに鼻をすすっているのかの区別もつきにくい。
冬四郎は京井の後について行きながら、だんだんと緊張していった。
「あそこ、ですね」
他の倉庫と何ら変わりない1つの倉庫を指差し、ぼそっと小声で言った。京井はわざと少し離れた所から、その倉庫を睨むように見ている。