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3話
「…っ?こっちから急に」
京井が驚いたように目を見開いた。片車輪も何か気付いたのか、怪しむように目を細めた。
「おかしないか?」
「おかしいです…けど、向かいたくなります」
「せやな…わしらだけで行くか?」
京井と片車輪が、ぼそぼそと話しているのが気になったのか、冬四郎が2人をちらちらと見ている。京井もその視線に気付いていた。だが、言うべきかと悩んだ。
京井の鼻には突然、むつの香りが強く匂ってきたのだ。だが、倉庫街に入ってすぐにこうもあからさまに罠のように、むつが居る事をアピールされると易々と近寄りたくはない。だが、もし本当に居るのだとしたらそれを追いたかった。ただ、罠だった時に京井と片車輪は何とか逃げ切れたとしても、人である4人がどうなるかは分からない。京井と片車輪が気にしているのは、そこだった。
対峙した京井と片車輪だからこそ、身を持って知っている。覆面の者がどれほど強いのかを。
「どないする?にぃちゃんと社長には隠しきれへんで。それに湯野君だってな」
片車輪は冬四郎と山上の視線を気にするように言った。京井も悩んでいた。