122/542
3話
取り出した軟膏を受け取った冬四郎は、指先にたっぷりと取るとそれを片車輪の手のひらにぬりたくった。染みるのか痛そうな顔をしていた。だが、片車輪は大人しく手当てされていた。
「みや、お前…」
「はい?」
「帰らなかっただろ?」
ガーゼを乗せて、くるくると包帯を巻いていた冬四郎は、ぎくっと動きを止めた。その時に、片車輪の手をぎゅっと触ったのか、片車輪の哀れな悲鳴が短く聞こえた。
「まぁ、はい…面倒くさくて」
「帰れよ。着替えて風呂くらい入れよ…ったくしょうがねぇなぁ。シャツ持ってきたから、着替えろ」
「あ、いえ…車に着替えはあるんで」
「なら、持っていけよ‼どうせ、むつの部屋で仮眠取ってたんだろ?じゃなきゃ、連絡しても俺より先にここに居るわけないもんな」
なんでもお見通しの山上に言われ、冬四郎は溜め息を吐いた。そして、素直にはいと言った。片車輪のもう片方の手を取ると、冬四郎は八つ当たりのようにぐりぐりと軟膏を塗りつけて、包帯を巻いていった。