1話
そんな冬四郎の様子に、颯介と山上は苦笑いを浮かべていた。じろじろと見られている男は、居心地悪そうにしている。
「あ、あーっ‼分かった、片車輪だ‼」
冬四郎がそう言うと、言われた髭面の男は、でへへっと恥ずかしそうに笑った。
「え?何してるんだ?こんな所で」
「そこのおっさんに引き止められてたんや。話もせずに、向かい合って…しんどかったわ」
「おっさんにおっさん言われる筋合いない。みやも来た事だし、何しに来たのか聞かせて貰おうか?」
「あの、俺もですか?何でまた?」
片車輪がよろず屋に来ているのは、そんなにおかしな事ではないが、むつの事と呼び出されたにも関わらず、ここで一緒に話を聞くのはどうにも理解が出来ず、冬四郎は首を傾げていた。
「こいつ、むつと今日約束してたんだ。でも、むつは休むって言ったくせに、そんな事は一言も言ってなかった。おかしくないか?あの、むつが」
「…ん?むつと連絡取ってるのか?どうやって?」
妖であるはずの片車輪が、むつとどう約束を取り付けていたのか気になった冬四郎が聞くと、片車輪は尻のポケットから携帯を取り出した。
「はぁ…最近の妖は携帯を使うのか。で、片車輪はいつ、むつに連絡して会う約束を?」
「一昨日や…ちょっとまぁ…あれだ」
「何だ?」
片車輪がしどろもどろになると、そこは元刑事の山上と現職の刑事の冬四郎が、きっと睨んだ。