3話
「宮前さん、京井さんが…片車輪も」
祐斗のおろおろした声に、冬四郎は目を細めた。何があったのかまでは分からずとも、京井が怪我をしているのだけは分かった。銀色のふさっとした毛のあちこちに、血がついており床に置いてあるナイフも血に濡れている。京井の身体を押さえている颯介の手も、真っ赤に染まっている。
冬四郎はしゃがむと、颯介の手をそっとどかせた。そして、顔を近付けて傷口を確認した。手をどけると、とろとろと血が溢れてきている。
「…縛って止血を…いや、深いな。焼いた方が早い。片車輪、お前炎まとってたな?傷口を焼けるか?無理なら…俺がやる」
「あんたが?どうやってや?」
「スプレーか何かで吹き付けながら」
ライターの火をスプレーで炎にして、それを京井の傷口に当てるのだと言った。それを聞き、片車輪が首を振った。
「わしがやる。それされたら…犬神さんの丸焼けが出来上がるやろ。死んでまうわ。タオルどけてや」
冬四郎は颯介と祐斗を下がらせて、タオルを傷口から外した。片車輪は、険しい表情をして歯をくいしばった。ごぼっと吹き出るようにして、片車輪は人の姿のままで身体に炎をまとわせた。