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3話
血の臭いにつられたのか、颯介の襟元からひょこっと管狐が顔を出した。小さな鼻をひくひくとさせ、するっと抜け出してくると京井の側に寄っていった。颯介の押さえている傷口に鼻を寄せ、ついっと床に落ちているナイフに視線を向けた。そして、そろそろと近付こうとすると、むんずっと片車輪の大きな手が管狐を掴まえた。乱暴そうな手つきのわりに、管狐は怒る事もなかった。
「あかんで。普通のナイフとちゃうわ」
片車輪の言葉に、祐斗はナイフに目を向けた。刃先に返しがついている以外は、どこにでもあるような、大きなサバイバルナイフにしか見えなかった。
「っ‼お前、その手どうしたんだ‼」
「触ったら、こうなってもうた」
管狐を肩に乗せると、片車輪は両手の平を祐斗に見せて苦笑いをした。手は火傷でもしたかのように、赤黒くただれていた。
「お前も手当てしないとな。管狐、向こうの机から毛布を持ってきてくれるか?」
首を傾げた管狐だったが、するすると細長い身体を揺らしながら、言われた通りに事務机の方に向かっていった。そして、小さな口でビニール袋の縛り口を噛むとずるずると引きずり始めた。