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3話
エレベータを降りると、気持ち急いでいる片車輪は、ばんっとドアを開けた。
「犬神さん‼」
「…ドア直したばかりみたいですから、静かに開けてくださいよ。また壊れますよ」
「祐斗君、薬局に‼包帯と消毒液‼」
京井の静かな声とは裏腹に、颯介の焦ったような声と共に、祐斗の目の前に財布が飛んできた。毛布の袋を落として、それをキャッチした祐斗は、首を傾げた。
「京井さんが怪我してる‼急いで‼」
「あっ…は、はい」
受け取った財布を握り締めて、祐斗はばたばたと事務所から出ていった。祐斗が落とした毛布を拾いあげ、片車輪はコインランドリーから持ち帰った毛布を机の上に置いた。
「やっぱし…怪我しとったんやな」
「えぇ、少しだけですよ」
「少しじゃありませんよ、これは」
颯介はぴしゃりと言った。京井は本来の犬神の姿に戻っており、奥のソファーの前でぐったりと横になっていた。声だけはいつもと変わらない落ち着いた物だった。