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3話
「どうした?」
「何やろうな、何か近くに居る」
片車輪は緊張したように、ぎゅっと毛布の入っている袋を握った。そして、ゆっくりと辺りに視線を向けた。だが、ふっと口元を緩めると、祐斗の方を向いた。
「犬神さんやな。戻ってきはったんやわ」
「な、何だ…そっか。良かった…何かと思って、俺も緊張しちゃったよ」
「すまん、すまん。昨日の今日やしな、また襲撃かと思ってまったんや」
太い腕を伸ばして、片車輪は祐斗の頭をわしわしと撫でた。そして、京井を待つのかと思ったがそのまま事務所に向かって歩き出した。
「待たないのか?」
「あぁ、向こうもさっさと事務所に向かったみたいやしな。わしらも戻ろう」
近くに居たはずなのに、京井が祐斗と片車輪に気付く事なく戻ったのかと思うと、祐斗は少し不思議だった。だが、片車輪の口元からいつの間にか笑みが消えて、きゅっと結ばれているのに気付くと、何かがあったんだなと直感した。ずんずんと早足に歩いていく片車輪を追って、祐斗は小走りに事務所に向かっていった。