1話
よろず屋と書かれた看板が、少し適当な感じに斜めにかけられているドアをノックもせずに開けた男が居た。看板にかいてある営業時間はとっくに過ぎていたが、そんな事気にもしていない様子だった。
「山上さん…どういう事ですか?」
入ってきた男は、慣れた様子で、奥に入ってくると挨拶もそこそこに山上の側に寄った。
事務仕事をする個々の机が並んでいる奥、パーテーションで仕切ってある所にはソファーがあり、そこに山上は髭面の男と対面するように座っていた。
「みや、とりあえず座れ」
みやと呼ばれた男、宮前冬四郎は微かに息が上がっていた。走ってでも来たのだろうか、コートを脱いで丸めると座った。
「むつに何か?湯野さんは、むつの部屋に行くのに一緒に来て欲しいとしか言ってませんでしたが」
「あぁ…まだ分からない。ただ、何かあった可能性があるってだけだ。むつな昨日から連絡つかないんだ」
「はぁ!?」
「社長、一応今朝はメール来てたじゃないですか」
お盆にコーヒーカップを乗せてやってきた颯介は、そうは言ったものの何やら不安げな様子だった。
「確かにな」
「あの、いったいどういう…それに、そちらの方は…?あれ、どこかでお会いした気が…」
冬四郎は髭面の男にちらっと視線を向け、何を思ったのか再び視線を向けると、遠慮もなくじろじろと男の顔を見ていた。