3話
「社長に電話してみる?何かあれば連絡をって言ってたし」
颯介がそう言ったが、片車輪はちらっと壁掛けの時計に目を向けて首を横に振った。
「まだ…えぇわ。社長さん居らんって事は帰って休んでるんやろ?もうちょい後でもえぇよ」
見た目とは裏腹に優しげな言い様に、颯介と祐斗は顔を見合わせた。鍵を開ける時に、買い物袋を持っていてくれたりと、なかなか気遣いもあった。颯介と祐斗にじろじろと見られ、片車輪は居心地悪そうに身動ぎをした。
「な、何や?」
「何て言うかさ、見た目のわりに優しいよな。むつさんの事も責任感じてるっぽいし」
「見た目で損してるタイプってやつだね」
祐斗と颯介に言われ、片車輪はむすっとした顔をした。だが、祐斗に優しいと言われ、満更でもなさそうに嬉しそうだった。
「そういやさ…」
キッチンに入り、残っていたインスタントコーヒーを使いきるように、少し濃い目のコーヒーをいれてきた祐斗は、紙コップを片車輪に渡した。
「何で、片車輪はむつさんに連絡したんだ?何かあったんなら、ここに直接来ても良かったんじゃないのか?」
「せやな…今はそれを思うわ。けどな、ねぇちゃんが何かあったら連絡してって連絡先を教えてくれたからそれに甘えたんやな」
濃いコーヒーをすすりながら、颯介は顔をしかめつつも、首を傾げた。
「いつ、連絡先を?てか、最近の妖は携帯を持ってるもんなのか?」
「秋に入った頃だったかな?ねぇちゃんが、ふらっと来たんや。バイクで夜中に。最初は、走りに来たんやと思ったんやけどな、うろうろして突然、大声でわしを呼んでやな…恥ずかしゅうてな」
颯介と祐斗はその光景が目に浮かぶようで、苦々しい笑いを浮かべていた。